Fly me to the Paris <5>Fly me to the Paris <5>「あ・・髭がなくなってる。どうりでチクチクしないと思った」 シーツに包まった揺はそういいながら彼の口の周りを指でそっと撫でた。 「揺は髭嫌いだったっけ?」 「ううん。どっちも好きよ。 あら、髭嫌いだったのはいつ付き合ってた女の人かしらね~」 揺はそういいながら彼の鼻をきゅっとつまんでケラケラと笑った。 「全く・・・」 ビョンホンは呆れたように苦笑いをした。 「で・・今日はどこで撮影だったの?」 彼の腕の中で揺は訊ねた。 「えっとどこだっけかな。 最初にリパブリック広場の近くのデザイナーのアトリエでイヴちゃんとラブシーンの撮影だろ~」 ふざけてそう話す彼に肘鉄を食わせる揺。 ゲラゲラと笑う彼。 「すっごいラブシーンの後は?」 揺は彼の髪をいじりながら訊ねる。 「えっと・・・リュクサンブール公園って言ったかな。 でっかい公園。 後お祭りやってた・・・」 「パンテオン?」 「そうそう。 それからプランタンの屋上にも行った。 それから橋・・・綺麗な」 「アレクサンドル3世橋?」 「あ~そんな名前だったな。お前よくわかるね」 「だってここは第二のふるさとだもの。 目をつぶったって歩けるわよ」 「へぇ~時間があったらいっぱい遊べるのになぁ。 でも寒いからな。俺、苦手、ここ」 「じゃ、また夏に来よう。」 揺はそういうと彼の胸に頭を預けた。 「ああ・・そうだね。 また夏に来ればいいや。」 彼はぎゅっと揺を抱きしめる。 「・・・そうだ。今日カメラを持って撮影したんだ。 フォトグラファーって設定で。 ハッセルブラッドってカメラなんだけどさ、凄いんだよ。 こうやって上からファインダーを覗くと左右反転して景色が映るんだけどすっごい綺麗なんだ・・ 何だか映画観てるみたいに。 何が違うのかな・・こう・・・」 楽しそうにそう話す彼を揺はニヤニヤと笑って見つめていた。 「何?」 ふと気づいたビョンホンが訊ねる。 「ん?何だかおもちゃの話している子供みたいだなって思って」 「そうやって揺はいつも子ども扱いする・・俺は立派な大人だぞ」 彼はそういうと揺に覆いかぶさった。 「知ってる。そんなこと」 揺は彼に身を任せながらにっこり笑ってそうつぶやいた。 「で、揺こそ今日は何してたんだよ。」 シャツを着ながらビョンホンは揺に訊ねた。 「ん?今日はね・・」 揺の両手には温かいコーヒーの入ったマグカップ。 彼女はゆっくりとベッドにいる彼の脇に腰掛けた。 そしてカップを手渡す。 「あったかいよ」 「thank you 」 「で?」 「ああ。今日ね。えっと・・・先生のところに挨拶に行ったわ。」 「先生って?」 「大学の先生。言ってなかったっけ? 私、2年間ソルボンヌ・ヌーベルにいたの。 いっつも単位もらうのがやっとの堕ちこぼれだったけど教授には可愛がってもらって。 未だにこっちに来ると顔を見せにいくんだ。」 「どんな先生?男?」 「え?うん。今45ぐらいかな。すっごいイケメン」 揺はそういうとビョンホンの顔色を横目で伺う。 「・・・・」 「嘘よ。イヴちゃんのお返し。もう60歳近い素敵なマダムです。」 揺はそういうとケラケラと笑った。 「全く・・・」 ビョンホンは渋い顔をして頭をかいている。 「それから?」 「あ・・それからね。 お天気が良かったから学校の近くの大きな公園に行ってランチにバケットサンドかじってたら・・ 何だか写真集かなにかの撮影をしていたから・・ちょっと覗いた。」 「お前・・・・」 ビョンホンは頭を抱えてニヤニヤ笑っている。 「結構カッコイイ男で衣装もとっても似合っていて素敵だったわ・・」 「それで?」 「あ・・それでね。 今日はパンテオンで水仙祭りだって待ち合わせしてた友達がいうから 一緒にパンテオンに行ったの。 そしたらさ・・・」 「またカッコイイ男が撮影してたの?」 「そう。あら、よくわかったわね。」 「それで?」 「え?それで・・・プランタンで買い物して・・」 「それで?」 「それで・・・アレクサンドル3世橋渡って帰って来た」 「こいつ・・・どこまで本当なんだよ。」 ビョンホンはそういうと揺の首を後ろから締めた。 「苦しい・・苦しい・・ごめんごめん。」 「全く・・よくそんなこと思いつくよ。」 呆れたように笑ってビョンホンは揺を後ろから抱きしめる。 「・・でも、衣装は本当によく似合ってたわよ。」 揺は彼の頬に軽くキスをしてそう言うとケラケラ笑いながら空のマグカップを片付けに立ち上がった。 |